ある日の記憶
私達の毎日の仕事、朝にお客さんのお宅に伺って畳を預かり、会社の作業場で畳をつくる。
夕方頃畳が出来上がったらお客さんに完成の連絡を入れて納品に伺う。
1日の流れをお話しすると文章では2行足らずの簡単なものですがお客さんや畳の種類、畳床のタイプに合わせた最善の修復作業などを考えると私の勤めた13年間で5000件はありそうな毎日の仕事にどれひとつ同じものなんて無かっただろうと思います。その中で日常にある「庭、鉢植え、趣味のカラオケ、飼っている犬」など何かの拍子で印象深いお客さんを思い出す時があります。今日は会社のそばのおばあちゃんでした。
はじめに伺った見積りの日、いつものように見本を見せて紹介しお客さんの気にいったものを選んでもらい合計金額を書いた見積書を差し出しました。
こちらが6000円で国産品の畳表です。
「いいよ、いいよ(^_^)畳屋さんにお任せします」
はぁ…(^^;)それではお部屋の使う度合いに合わせて丁度いいのを紹介しますね
「いいのいいの、好きなようにやって下さい(^_^)」
いや…(^^;)でも金額の事もありますので好きなようにとは…
「じゃ決めようか、はいコレ」
っっ早っ!?…こちらで良いですか?では合計金額を出しますね。
はい、出来ました。こちらが見積書になります。
「うん。はいはい」(おばあちゃんは見積書にほとんど目を通さずテレビ横に置く)
では金曜日の作業で予定しておきますのでよろしくお願いします(^_^;)…
…大丈夫かな…あっ、もしかしてそういう細かいやり取りが嫌いだったのかな?
商店街の雰囲気のような「これちょうだい!」、「あいよ!」みたいなほうが良かったのかな?…あれこれ考えても仕方ない。きっちり仕上げればお客さんも喜んでくれるさ。
そして作業の日。
別に特殊な形をした畳でもなく難しい修復もない、畳の質や部屋のタイプで一番使いやすく長持ちするだろうというプロの経験は持ち合わせている。作業は自分で納得できる仕上がりだった。「はい、終わりました!」
「あぁ…キレイになったねぇ…悪いけどタンスの場所を変えたいんだけど」
はい、良いですよ(^_^) どのようにしましょ?
「これをここに置いて、その短いのを隣につけて、向かいにその…」
はい、こうですね
「うん、ありがと。終わったらお茶飲んで(^_^)お支払いもしたいから」
はい、ありがとうございます!
お茶と代金を頂き最後の挨拶。「ありがとうございます、またどうか宜しくお願いします」
幸せな事に帰り際はどのお客さんも喜んで笑顔で送ってくれる。このおばあちゃんもそうだった。でもそれから半月も経たないある日、予想も出来ない事が起こった。
「…あのおばあちゃん昨日亡くなったよ…新聞のお悔やみにも出てる…」
同僚から聞いた信じれない一言
!!!えっ?まさか。ほんとに?…頭が真っ白になりそうだった。
なんだよ…病気なんて無いような事言って…なんだよ
なんだよ…まるで人の家みたいに「好きなようにとか適当に」とか言って…
なんだよ!おばあちゃん!僕はそんな仕度の手伝いの為に行ったんじゃないんだぞ!
毎日気分よく暮らせる部屋を作るつもりでがんばったのに!
もう少し口うるさく「もっと上手に作れ」とか「サービスしろ」とかあってよかったのに!
…なんだよ…おばあちゃん…
あまり思い出したくない経験ですが喜んでくれたおばあちゃんの笑顔だけは覚えていたいと思います。会話のやり取りでお客さんの希望を読み取る事は出来ても私たちは私達なりの気配りで最高の仕事をしているつもりなので完全に心を掘り起こすようなことはもちろん出来ません。でも幸せだったのなら良かったと思います。そう思うしかありませんでした。
結婚予定のある息子の為に、出産を控えた娘の為に、休みに遊びにくる親戚の為に、など
家族の数だけいろんなドラマがあると思います。私もそのお客さんのいろんな思いをのせて
またこれからも畳作りを精一杯がんばって行こうと思います。
nobu







